前回は主にポジティブポライトネスという言語学の理論を簡単にまとめた。もう一度簡単にまとめると、「ほかのひとと近づきたい欲求」を言動で満たしてあげる方法だ。詳細は前回記事を見ていただければとってもハッピーだ。
人はだれしも社会的な生き物だ。誰かと一緒にいないと寂しい。わかってもらえないと悲しい。
社会的だからこそ、時々、他人がうっとうしくなる。今日はそんな当たり前の「欲求」に目を付けたことばのテクニックを社会言語学の古典「ポライトネス理論」に基づいて紹介する。
ネガティブフェイス=「人と離れたい欲求」
何か夢中になっているときに、お願いごとをされるとムッとする人が多い。自分でもその気持ちはわかる。この「邪魔されたくない気持ち」さらに抽象的な言い方をすれば「人と距離を置きたい気持ち」は、結構だれもが持つものではないかと思う。
この気持ちに対して、「きちんとことばに出して」気遣いを伝える方法を考えたのが、前回も紹介したBrown and Levinson (1987)だ。
(ちなみに世界的に有名な理論を考え出したのはまだ大学院生のときだったとか)
ネガティブポライトネス
=「消極的」な言動によって丁寧にふるまおう
この記事でまとめるのはもう一つのポライトネス=ネガティブポライトネスだ。別にネガティブではがないのだが、「消極的」な言動によって丁寧にふるまおうとするテクニックなので、こんな名前がついている。
以下に目を通していただければ気づくと追うのだが、私たちが「丁寧」と聞いてもっともしっくりくるのは、むしろこっちのネガティブポライトネスだろう。
「離れたい欲求」を満たして衝突を避ける、10の方策
ストラテジ一l :慣習的な間接的表現を使う
例:「だと思う」とか「かもしれない」を使う。
ストラテジー2:質問する、「ちょっと」を使う
例:「いま少しだけお時間よろしいでしょうか?」
ストラテジー3:結果を期待しすぎない
例:「もし忙しければ大丈夫なのですが、」
ストラテジー4:相手の負担を最小化する努力をアピールする
例:「もちろん残りの部分は私の方でやりますので」
ストラテジー6:迷惑かけてしまうの事実をはっきり認める
例:「お時間取らせてしまい申し訳ありません」
例:「お手数おかけしました」
ストラテジー7:迷惑が本意ではないことを示す
例:「お邪魔しようというつもりはなかったのですが、」
ストラテジー8:そうしなければならに圧倒的な理由を示せ
例:「どうしても○○さんから今日中にと言われてまして」
ストラテジー9 聞き手個人から一般的な法則に言い換える
例:「○○さん、もう少し早めに出社してください」
→「少なくとも15分前には出社するのが、この会社のルールみたいになっています」
ストラテジー10:話し手個人から一般的な法則に言い換える
例:「ここの文言はこう修正した方がいいと思います」
→「クライアントは、こういう言い回しを好む人が多いんですよ」
言葉は戦略的に選択し、健康な社会生活を手に入れてほしい
以上は、われわれ日本人にとってはごくありふれた表現ばかりだ。
しかし、ひとたび別の文化圏の人に触れれば、これが事実でないことに気が付くだろう。
また、ストラテジーを明示的にリストアップすることによって、いざ(例えば)上司に謝罪メールを送るとなったときに、頼れるガイドラインとして活用できる。
相手に迷惑をかけるときは、ただでさえ精神が削られる。そのせいで肝心の言葉遣いまで気が回らないこともあるだろう。
「どんなメールにすればいいかな」と迷うときは、ぜひネガティブポライトネスを思い出して、余計な気疲れを少しでも減らし、健康的な社会生活と睡眠を実現していただければ嬉しい。